嬉しかったこと


ヒッキーのHJ君を週一で訪問し始めて2ヶ月が過ぎた。

 

HJ君のお父さんは、なんだかんだ言いながらも、食べ物がなかったら困るだろうと、パスタを作ったり、お弁当を買ってきてあげたりしている。でも、H君のお気に召さないのか、お父さんへの反抗なのか、そのままキッチンに残されたままになっていたり、自分で買ってきたレトルトを食べたりしているようだった。

それで、前々回の訪問時、午後3時、HJ君もめずらしく起きているようだったので、彼のお父さんが作ったあさりのペペロンチーノを彼の部屋まで持って行ってみた。あさりは、HJ君の好物らしい。

 


おなかすいたでしょ?一緒に食べようよ。
ね、食べてみてよ!

HJ君
・・・
(H君が一口食べたところで)


味、どう?

HJ君
ニンニクがキツイですね。
(あらっ!言うじゃん!これには結構、驚いた!)


ニンニク、嫌い?

HJ君
(ウンとうなづく。)


(彼のお父さんが作ったとは言わず、私が作ったことにして)
そっかぁ〜。私、ニンニク好きだからね。
今度は違うのにするわ。
まあ、今日のところは我慢して食べてみてよ!

 

だが、それきり食べなくなってしまった。
そして、おもむろにポットでお湯を沸かし始め、部屋を出て行ったと思ったら、コーヒーカップとソーサを持ってきた。
そして、

 

HJ君
コーヒーは、濃いのと薄いの、どちらが好きですか?


薄いの!

といって、コーヒーを淹れて「熱いですから気をつけてください」と渡してくれた。

 

こうして文章にすると、普通に会話しているように感じるが、声は本当に聞き取りにくい。そして、こんな会話らしい会話は初めてだった。

最初の頃は、私の訪問している間はほとんど寝たまま、起きている時でも、いくら声をかけてもなかなか振り向いてもくれなかった。でも、私のことだから、振り向くまで言い続けるけど。結局、彼は根負けして、こちらを振り向いてくれる。

そして、私が何を言っても返って来る答えは、
「うん」「ううん」「イヤ」「できない」「わからない」だけ。

 

でも、2ヶ月が過ぎて、一緒にパスタを食べたり、コーヒーを飲んでいるなんて、ずいぶん、変わってくれたなぁと思う。もしかしたら、彼は何も変わっていなくて、ようやく私を受け入れてくれたってことかもしれないけど。

そういうことは私にとってはどちらでもよくて「本当にありがとう〜」って思う。そして、自分がそういう風に思えたことが嬉しかった。